「無関心」ではなく「無検証」が危うい:林原めぐみ氏ブログと拡散する「外国人コスト論」を検証する

「興味がない、わからない、知らない……日本が日本に[無関心]な事がとにかく悲しい」
― 林原めぐみ 2025年6月8日付ブログより

声優・林原めぐみ氏の率直な憂慮は、日本社会に漂う閉塞感を映す鏡でもある。しかし、そこに挙げられた危機感の多くは “無関心” ではなく “無検証” が生む誤解に根ざしている。ここでは主要な思い違いを論理的に整理し、事実を提示する。

この記事が依拠する「検証」について

そしてSNS には魅力的な断片情報があふれているが、断片は往々にして強い物語を生む一方で、裏付けを欠きやすい。
そこで以下では

  1. 国の一次統計(財務省決算、総務省地方財政、厚労省白書)
  2. 公式の補正資料(国会提出の予算・決算書)
  3. 国際機関レポート(OECD ほか)

という三系列を土台にした。推計値については「最小・中位・最大」の三段階を必ず併記し、恣意的な単一数字が独走しないようにしている。

なぜここまで厳格に立脚点を示すのか。
それは“不愉快な現実でも検証に耐えれば尊重する”そんな最低限の合意を持ってほしいと思うからだ。

前置きが長くなったが。ここからは 「収入」と「歳出」の議論から抜け落ちやすい項目 を洗い出し、その量を定量化していく。

1. 2023 年度:外国に由来する税収を推計

区分主な計算根拠税目税収規模シェア
①輸出販売由来の法人課税輸出額100.9 兆円 × 利益率10% × 法人実効税率30%法人税など≈ 3.32.8 %
②在留外国人・訪日客の国内購買由来の法人課税〈a〉訪日客消費3.72 兆円※
〈b〉在留外国人消費5.6 兆円(人口322万人×年200万円前後)
利益率10% × 法人実効税率30%
同上≈ 0.330.3 %
③外資系企業の国内利益課税対内直接投資残高比で粗推計同上0.50.4 %
④在留外国人の所得課税労働者205万人×年収279万円×平均実効7%所得税・住民税0.400.3 %
⑤外国人の国内購買に掛かる消費税〈a〉訪日客課税対象3.72 兆円×10%=0.37
〈b〉在留外国人消費5.6 兆円×10%=0.56
消費税0.930.8 %
⑥関税収入決算ベース9,110億円関税0.910.8 %
⑦国際観光旅客税(出国税)2023年度税収見込み約400億円旅客税0.400.3 %
⑧外国保有不動産・資産課税ほか固定資産税・宿泊税・源泉分離税等を保守的に諸税≈ 0.150.1 %

合 計 約 6.9 兆円 → 総税収の 5.9 %(ざっくり 6 %弱)

2023年度・外国人向け公的支出の内訳(推計)

支出項目内容金額(推計)備考
① 国費留学生支援国費留学生への教育費・給与(JASSO経由)約0.0167兆円(約167億円)教育費1.112 億/給与155.8 億 計167 億円
② 私費外国人留学生支援(奨学金等)JASSO 他を通じた給付・貸与など数10〜100億円給付型など留学生向け推計(私費)
③ 外国人労働者の社会保障受益医療、年金、介護、雇用保険、生活保護等約0.2〜0.4兆円留学生以外の在留労働者に対し OECD比や厚労省資料もとに推定
④ 観光インフラ・行政サービス多言語案内、公共トイレ整備、出入国管理業務約0.05兆円券売機・案内所整備、公務員配置などに通訳費含む
⑤ 公教育の多言語対応小中学校における日本語支援教員・教材・職員約0.03兆円外国籍児童の学習支援・加配教員等で推計
⑥ 出入国管理・ビザ業務出入国在留管理庁の運営・審査、人員運営費約0.06兆円リソース配分や官僚人件費を勘案
⑦ 難民・庇護者支援住宅費や医療支援、生活保護一部数10〜50億円難民認定者が少なく、支出規模は小さい
⑧ 地方自治体の自治体助成外国人雇用に対する助成金・補助金約0.02兆円自治体単位の外国人雇用支援制度
対象合計支出額(兆円)日本の一般会計支出約108兆円に対する割合
合計(①~⑧)約0.45〜0.65兆円0.4〜0.6%程度

データ追加:把握漏れしやすい収入・歳出項目

区分追加論点補強データの例コメント
収入側① 社会保険料(厚年・健保・介保等)外国人労働者 約205万人 × 平均年収279万円 × 保険料率約15% ≒ 0.86兆円(労使折半分のみ)就労在留者の大半が強制加入。任意脱退による一時金払出しを控除しても黒字幅は維持。
② 固定資産税ほか地方税在留外国人住宅取得・事業用拠点増による計数:保有比率2.5%相当と仮定すると 0.12兆円地方税決算を外国人比率で按分。実額把握には総務省「住宅土地統計調査」参照。
③ 留学・技能実習ビザ更新手数料等入管庁実績ベース 年間約210億円歳入(雑収入)計上される国庫金。
歳出側④ 義務教育費外国籍児童約12.5万人 × 公立小中1人当たり公費87万円=0.11兆円就学支援は地方交付税措置済みで純増とはならない点を明記。
⑤ 生活保護医療扶助の外国籍分被保護世帯比率1.6% → 支出増分 0.03兆円近年は減少傾向。河野試算0.125兆円が上振れ側であることを示す裏付けになる。

追加計上後でも、税収+保険料 7.9兆円/歳出 1.06兆円 → 貢献は約7.5倍で不変。


2. 手法の精緻化:上限・下限レンジと重複排除

  1. 法人課税のレンジ設定
    • 輸出利益への法人税 は利益率10%の「上限」だけでなく、5%・7.5%の「中位」「下位」ケースも算出。
    • 実効税率は国税23.2%+地方税10.3%(外形標準課税控除後)を用い三階建てで感度分析。
  2. 消費税の免税調整
    • 2026年度の「リファンド方式」移行で免除額が国庫を通過する点を将来予測に反映。
  3. 社会保険と一般財源の峻別
    • 社会保険料は税外収入として別掲。
    • 医療費は「保険給付(準公費)」と「公費負担医療」を二重計上しないよう整理。
  4. 地方交付税による財政調整
    • 外国人関連コストの多くは交付税で全国に平準化済み。歳出を「純増分」で算出すると0.09兆円ぶん縮小するが、慎重を期し控えめに留める。

3. 感度分析:下位‐中位‐上位シナリオ

シナリオ税収等(兆円)歳出(兆円)収支倍率
下位(利益率5%、医療費高取)5.51.154.8倍
中位(提示値+保険料追記)7.91.067.5倍
上位(利益率10%、歳出純増控除)8.60.978.9倍

いずれのケースでも「受益超過」論は成立せず、プラス収支が堅持される。


4. 国際比較で位置づけを可視化

  • OECD は「移民の財政インパクトは概して±1%GDP以内」と結論。日本は外国人比率が2.2%と低水準であり、正のインパクトが他国より小さくても負になりにくい 構造にあると解釈できる。
  • 「Recruiting Immigrant Workers: Japan 2024」は、技能系・高学歴系の比率が過半を占める点を強調し、長期的な税・保険料基盤として期待が大きいことを指摘。

5. よくある反論への実証的整理

主張反証ポイント(要約)データ根拠
①「医療ただ乗り」国保加入外国人の医療費は国保総額の1.4%。高齢者比率が極端に低く自然に抑制。厚労省国保実態調査・被保険者統計
②「生活保護目当て」外国籍世帯の被保護率1.6%は日本人2.4%より低い。支出額0.03兆円と微小。厚労省被保護世帯データ
③「賃金を下げる」外国人比率2%の労働市場で賃金弾力性は限定的。むしろ人手不足産業の倒産防止要因。労働白書
④「送金で外貨流出」在日外国人の海外送金は年間約4,300億円(推計)。総可処分所得の7%に過ぎず、残りは国内消費に還流。日銀「国際収支統計」

6. 政策含意:コストでなく「投資」とみる視点

  1. 技能・特定技能の定着率向上
    研修から就労・永住までシームレスな在留管理により、納税・保険料を長期安定化。
  2. 医療・教育の多言語化
    既存予算0.07兆円(地方共生策等)は、地方創生インフラとしてリターンが大きい。
  3. 統計の粒度向上
    税務・社会保険・地方財政データを在留資格別に連結可能とすれば、議論の「名寄せ」が進み更なる誤解防止につながる。

7. 結論

外国人関連歳出は、最も広く見積もっても歳入(税+保険料)の 15%以下
感度分析を踏まえても外国人は 「財政を7倍前後で支える納付主体」 であり、
「税金を食い潰す存在」とする論は成立しない。

人口減少下の日本が維持すべきは、「コスト最小化」ではなく〈多様な納税者・保険料負担者を確保するインフラ投資〉 という視点だ。
政策を論じるなら、範囲と定義を明確にした定量比較を出発点に据え、感情論や外因論に流されない公共対話を支えるべきである。

数字を積み上げていく過程で、私自身も何度か 「思い込みの罠」 に気づかされた。
「拡散されているから正しい」、「声が大きいから現実」その心地よさに身を預けた瞬間、
私たちは “無関心” ではなく “無検証” を選んでしまう。


主要出典(抜粋)