結論から言う。嘘と矛盾はどちらも認識を歪めるが、広がり方と修正のしやすさ、そして事実の見えにくさの生み方が違う。とくに矛盾は、悪意を前提とせずに拡散し、結果として事実を実質的に隠す。この性質が長期的な害を大きくする。SNSの陰謀論やデマの拡散はこの要因が大きい。
用語をそろえる
- 嘘:事実でないと知りながら、相手を誤らせる意図をもって語ること。
- 矛盾:同じ条件・同じ対象について「〜である」と「〜ではない」を同時に主張してしまう状態。意図の有無は問わない。誤解、連絡不備、時間軸の混在などでも生じる。
なぜ似た結果になるのか
両者は、共有している現実認識の地図を歪める。意思決定の誤り、調整コストの増加、責任の曖昧化といった結果は共通だ。ただしメカニズムが異なる。嘘は特定方向に認識を押し曲げる「偏り」を生み、矛盾は情報のばらつきを増やして確信度を下げる。
三つの観点でのちがい
1) 感染力
- 嘘は共有に心理的抵抗が働きやすい。発信者の動機も問われる。
- 矛盾は悪意が不要。二つの主張のどちらか一方だけでも一部には妥当そうに見えるため、思わず共有される。結果として到達範囲が広がりやすい。
2) 修正のしやすさ
- 嘘は倫理的損傷は大きいが、証拠や検証で一挙に崩せる局面がある。発信者自身が真実を把握していることも多い。
- 矛盾は「誰が何を直すか」が曖昧になりやすい。定義、対象、時点のすり合わせなど小さな修正の積み上げが必要で、その最中にも拡散が続く。
3) 隠蔽効果
- 嘘は反証に直面すると比較的はっきり崩れる。
- 矛盾は、真実が公開されていてもノイズが多く、到達コストが上がるため事実が実質的に見えなくなる。何を信じればよいか分からず、調べに行く意欲自体が落ちる。
「嘘の方がマシか?」について考える
これは局面による。露骨な嘘は見抜ければ混乱を抑えられるが、発信者への信頼は強く傷つく。矛盾は信頼への一撃は弱く見えても、悪意なしで広がり、日常の判断力を徐々に奪う。最も危険なのは、嘘と矛盾が混ざり、主張が意図的に揺らされる状況だ。これは現実認識の基盤を崩す。
価値の違いを「矛盾」と取り違えない
安全と自由、迅速と公平のような価値の優先順位の違いは、外形的に矛盾に見えることがある。これは論理の破綻ではなく、どの条件でどの価値を優先するかが明示されていないことが原因だ。主張には対象・範囲・時点を添えるだけで、多くの“見かけの矛盾”は解消する。