夢の中の話

父が遺したはずの金が置かれた机を夢の中で見た。蛍光灯の白だけが静止した空間を均質に照らし、封筒の紙肌が無音で呼吸する。兄が札束を指で数え、二、三枚を自分の束へ滑らせた。埃が落ちるような動きだった。紙はただの重さでしかなく、欲しかったのは父の体温だった。伯母が隣で書類を揃え、朱肉に沈む印影が一瞬だけ赤く膿む。父の側にいつもいてくれたのは、この人だったのだと知る。

目が覚めると、天井の白が薄い朝に変わっていた。財布には影も残らず、室内をひと筋の風が通り抜ける。小さな空洞が皮膚を冷やすが、怒りは浮かばない。夢の中の父は確かに差し出そうとしていた。その幻だけが皿の縁に残った水滴のように微光を宿し、静かに乾いていく。