前回の記事では、憲法と法秩序が排他的な言説で揺らぎ、個々の権利が簡単に失われる危険を指摘した。今回の焦点は社会保険料について考えたい。企業が半額を負担するという建前は賃金抑制で相殺され、実際の負担は労働者、とりわけ若年層に集中している。標準報酬月額の上限は高所得者の平均負担率を下げ、適用外の非正規と個人事業主はさらに不利だ。
少子高齢化が続く限り、保険料率は上がり給付は下がる。現行方式は高度成長期の数式を人口縮小期にそのまま適用しており、現役一人が高齢者一人を支える構図に近づきつつある。それでも議論は「国全体で支え合うべきだ」という抽象的な呼び掛けで停滞し、不平等な資金フローを是正する具体策が後回しにされている。若年層は手取りの減少と将来不安の二重負荷を抱え、制度から離脱する動機を強める。徴収強化は不信を高めるだけで基盤の強化につながらない。
制度崩壊を避けるには、負担と給付の計算式を公開し、累進料率・一元加入・高齢者負担調整の有効性を検証し、数値を根拠に再設計するしかない。その作業で最優先すべきは財政効率よりも、倫理・道徳・法という三本柱を外さないことである。公平を確認しながら制度を見直すこと、それが現役世代の信頼を取り戻し、社会を持続させる唯一の手段である。今こそ数値を開示し、議論を具体化させる責任が行政と政治にある。隠されたコストは最も弱い立場の人々から順に顕在化する。理念を先行させ計算を曖昧にする包摂論は、制度崩壊をいっそう早める。